『遠山まつり』写真・信濃風土記3  長野県教育委員会/編

 南アルプス連山の南端に聳える峯々の沢から流れ下る水は、集い膨らんで上村・遠山・八重河内の三河となり、合して天龍川に入る。これらの川は、遠山西麓の幽谷の底を穿って岸辺の幾つかの里を潤すが、その集落はまた右岸の険しい山地で伊那平と隔てられている。本書の「遠山風土記」の初めに向山雅重氏はいう。谷の東斜面は、一般に45度の傾斜地だが、西麓南ア前山の裾はややなだらかで、古くから人が住みつき、山畑も拓かれていたと。遠山の郷とは、当にそういうところであった。

 本書は、昭和28年制作の岩波映画「山のまつり」の映像を中心に、前記向山氏の歴史地誌民俗の解説、三隈治雄氏(現在実践女子大教授)によるまつりの研究史レジメと上村上町のまつりの概要や次第を記録したものである。

 特筆すべきことは、その次第のなかで読みあげられ唱えられるまつりの詞章が、口誦のまつり伝承の保存に努力された上町の医師岡井一郎氏と古老宇佐美虎之助氏によって、見事に書き留められたことである。口伝えによるといわれる「申し上げ」は、このような地道な努力によって記録されなければ消えてしまうもの、まつり伝承館「天伯」の前島衛さんによれば、この口承の掘り起しは現在もたゆみなく行われているそうで、頭の下がる思いである。

 本書が遠山まつりに関しての実に貴重な文献であることは、上記のことだけではない。岩波映画が遠山の上村を取材したのは、昭和20年代の終りであろう。この写真風土記には、戦後間もない村人の、生活の息吹きが、まつりに寄せる熱いおもいが溢れている。鳥も通わぬ奥山と歌われた山村の、自然との苛烈な戦い、そして逞しくまたおおらかに祭を待ちそして行う生きざまが画面から沸々と湧き出てくる。半世紀以上を経た今、それらは影をひそめてしまったかもしれないが、なぜか懐かしく心強くも感じられるのである。

(Y.Y)



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